つまでも帰《かえ》って来《き》ませんでした。葛《くず》の葉《は》はいつものとおり機《はた》に向《む》かって、とんからりこ、とんからりこ、機《はた》を織《お》りながら、少《すこ》し疲《つか》れたので、手を休《やす》めて、うっとり庭《にわ》をながめました。もう薄《うす》れかけた秋《あき》の夕日《ゆうひ》の中に、白い菊《きく》の花《はな》がほのかな香《かお》りをたてていました。葛《くず》の葉《は》は何《なん》となくうるんだ寂《さび》しい気持《きも》ちになって、我《われ》を忘《わす》れてうっかりと魂《たましい》が抜《ぬ》け出《だ》したようになっていました。その時《とき》外《そと》から、
「かあちゃん、かあちゃん。」
と呼《よ》びながら、遊《あそ》び疲《つか》れた子供《こども》が駆《か》けて帰《かえ》って来《き》ました。うっとりしていて、その声《こえ》にも気《き》がつかなかったとみえて、葛《くず》の葉《は》が返事《へんじ》をしないので、不思議《ふしぎ》に思《おも》って子供《こども》はそっと庭《にわ》に入《はい》ってみますと、いつものように機《はた》に向《む》かっている母親《ははおや》の姿《すが
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