《ゆき》が森《もり》をも谷《たに》をもうずめつくすようになりました。保名《やすな》はそのままいっしょに雪《ゆき》の中にうずめられて、森《もり》を出ることができないでいました。そのうち雪《ゆき》がそろそろ解《と》けはじめて、時々《ときどき》は森《もり》の中に小鳥《ことり》の声《こえ》が聞《き》こえるようになって、春《はる》が近《ちか》づいてきました。保名《やすな》は毎日《まいにち》親切《しんせつ》な娘《むすめ》の世話《せわ》になっているうち、だんだんうちのことを忘《わす》れるようになりました。それからまた一|年《ねん》たって、二|度《ど》めの春《はる》が訪《おとず》れてくる時分《じぶん》には、保名《やすな》と娘《むすめ》の間《あいだ》にかわいらしい男の子が一人《ひとり》生《う》まれていました。このごろでは保名《やすな》はすっかりもとの侍《さむらい》の身分《みぶん》を忘《わす》れて、朝《あさ》早《はや》くから日の暮《く》れるまで、家《いえ》のうしろの小《ちい》さな畑《はたけ》へ出《で》てはお百姓《ひゃくしょう》の仕事《しごと》をしていました。お上《かみ》さんの葛《くず》の葉《は》は、子供《
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