たにがわ》の水《みず》をしゃくって、保名《やすな》に飲《の》ませてやりました。そしてそのみじめらしい様子《ようす》をつくづくとながめながら、
「まあ、そんな痛々《いたいた》しい御様子《ごようす》では、これからどこへいらっしゃろうといっても、途中《とちゅう》で歩《ある》けなくなるにきまっています。むさくるしい家《いえ》で、おいやでしょうけれど、ともかくわたくしのうちへいらしって、傷《きず》のお手当《てあて》をなさいまし。」
 といいました。
 保名《やすな》は大《たい》そうよろこんで、娘《むすめ》の後《あと》についてその家《いえ》へ行きました。それは山《やま》の陰《かげ》になった寂《さび》しい所《ところ》で、うちには娘《むすめ》のほかにだれも人はおりませんでした。この娘《むすめ》は親《おや》も兄弟《きょうだい》もない、ほんとうの一人《ひとり》ぼっちで、この寂《さび》しい森《もり》の奥《おく》に住《す》んでいるのでした。
 その明《あ》くる日|保名《やすな》は目が覚《さ》めてみると、昨日《きのう》うけた体《からだ》の傷《きず》が一晩《ひとばん》のうちにひどい熱《ねつ》をもって、はれ上《あ》
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