ようとしておいでの時《とき》、ほかの人間《にんげん》の命《いのち》を取《と》るというのは、仏《ほとけ》さまのおぼしめしにもかなわないでしょう。そうすると、せっかく助《たす》かる御病人《ごびょうにん》が、かえって助《たす》からなくなるまいものでもない。」
 こう和尚《おしょう》さんにいわれると、さすがに傲慢《ごうまん》な悪右衛門《あくうえもん》も、少《すこ》し勇気《ゆうき》がくじけました。和尚《おしょう》さんはここぞと、
「しかし、ただ助《たす》けるというのが業腹《ごうはら》にお思《おも》いなら、こうしましょう。この男を今日《きょう》から侍《さむらい》をやめさせて、わたしの弟子《でし》にして、出家《しゅっけ》させます。それで堪忍《かんにん》しておやりなさい。」
 といいました。
 悪右衛門《あくうえもん》もとうとう和尚《おしょう》さんに言《い》い伏《ふ》せられて、いったん虜《とりこ》にした保名《やすな》を放《はな》してやりました。
 やがて悪右衛門《あくうえもん》の主従《しゅじゅう》は和尚《おしょう》さんに別《わか》れを告《つ》げて、また森《もり》の中にすっかり姿《すがた》が見《み》えな
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