おどろ》いて振《ふ》り返《かえ》ると、それは同《おな》じ河内国《かわちのくに》の藤井寺《ふじいでら》というお寺《てら》の和尚《おしょう》さんでした。そのお寺《てら》は石川《いしかわ》の家《いえ》代々《だいだい》の菩提所《ぼだいしょ》で、和尚《おしょう》さんとは平生《へいぜい》から大そう懇意《こんい》な間柄《あいだがら》でした。
「これはめずらしい所《ところ》でお目にかかりました。どういうわけで、その男を殺《ころ》そうとなさるのです。」
 と和尚《おしょう》さんはたずねました。
 悪右衛門《あくうえもん》はそこで、今日《きょう》の狐狩《きつねが》りの次第《しだい》をのべて、とうとうおしまいに保名《やすな》にじゃまをされて、くやしくってくやしくってたまらないという話《はなし》をしました。
 和尚《おしょう》さんは、静《しず》かに話《はなし》を聞《き》いた後《あと》で、
「なるほど、それはお腹《はら》の立《た》つのはごもっともです。けれども人の命《いのち》を取《と》るというのは容易《ようい》なことではありません。殊《こと》に大切《たいせつ》な御病人《ごびょうにん》の命《いのち》を助《たす》け
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