くなりますと、和尚《おしょう》さんは、その時《とき》まで、ぼんやり夢《ゆめ》をみたように座《すわ》っていた保名《やすな》に向《む》かって、
「さあ、乱暴者《らんぼうもの》どもが行ってしまいました。また見《み》つからないうちに、そっと向《む》こうの道《みち》を通《とお》って逃《に》げていらっしゃい。わたくしはさっきあなたに助《たす》けて頂《いただ》いた、この森《もり》の狐《きつね》です。御恩《ごおん》は一生《いっしょう》忘《わす》れません。」
 こういうが早《はや》いか、和尚《おしょう》さんはもうまた元《もと》の狐《きつね》の姿《すがた》になって、しっぽを振《ふ》りながら、悪右衛門《あくうえもん》たちが帰《かえ》っていった方角《ほうがく》とは違《ちが》った向《む》こうの森《もり》の中の道《みち》へ入《はい》っていきました。それはさも、自分《じぶん》について来《こ》いというようでした。保名《やすな》はいよいよ夢《ゆめ》の中で夢《ゆめ》を見《み》たような心持《こころも》ちがしながら、うかうかとその後《あと》についていきました。

     二

 もう日がとっぷり暮《く》れて、夜《よる》にな
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