位《くらい》を取《と》り上《あ》げて、追《お》い返《かえ》して頂《いただ》きとうございます。」
 と申《もう》し上《あ》げました。
「でもお前《まえ》がもし童子《どうじ》に負《ま》けたらどうするか。」
 と天子《てんし》さまは少《すこ》しおこって、おたずねになりました。
「はい、万々一《まんまんいち》わたくしが負《ま》けるようなことがございましたら、それこそわたくしの頂《いただ》いておりますお役《やく》も位《くらい》も残《のこ》らずお返《かえ》し申《もう》し上《あ》げて、わたくしは童子《どうじ》の弟子《でし》になって、修業《しゅぎょう》をいたします。」
 と、高慢《こうまん》な顔《かお》をしてお答《こた》え申《もう》し上《あ》げました。
 そこで天子《てんし》さまは阿倍《あべ》の晴明親子《せいめいおやこ》をお呼《よ》び出《だ》しになり、御前《ごぜん》で術《じゅつ》比《くら》べさせてごらんになることになりました。道満《どうまん》と晴明《せいめい》が右左《みぎひだり》に別《わか》れて席《せき》につきますと、やがて役人《やくにん》が四五|人《にん》かかって、重《おも》そうに大きな長持《ながもち》を担《かつ》いで来《き》て、そこへすえました。
「道満《どうまん》、晴明《せいめい》、この長持《ながもち》の中には何《なに》が入《はい》っているか、当《あ》ててみよ、という陛下《へいか》の仰《おお》せです。」
 とお役人《やくにん》の頭《かしら》がいいました。
 すると道満《どうまん》は、さもとくいらしい顔《かお》をして、
「晴明《せいめい》、まずお前《まえ》からいうがいい。子供《こども》のことだ、先《さき》を譲《ゆず》ってやる。」
 といいました。晴明《せいめい》はその時《とき》、丁寧《ていねい》に頭《あたま》を下《さ》げて、
「では失礼《しつれい》ですが、わたくしから申《もう》し上《あ》げましょう。長持《ながもち》の中にお入《い》れになったのは猫《ねこ》二|匹《ひき》です。」
 といいました。
 晴明《せいめい》がうまくいいあてたので、道満《どうまん》はぎょっとしました。
「ふん、まぐれ当《あ》たりに当《あ》たったな。いかにも二|匹《ひき》の猫《ねこ》に相違《そうい》ありません。それで一|匹《ぴき》は赤猫《あかねこ》、一|匹《ぴき》は白猫《しろねこ》です。」
 長持《ながもち》のふたをあけると、なるほど赤《あか》と白の猫《ねこ》が二|匹《ひき》飛《と》び出《だ》しました。天子《てんし》さまも役人《やくにん》たちも舌《した》をまいて驚《おどろ》きました。
 今《いま》のは勝負《しょうぶ》なしにすんだので、又《また》、四五|人《にん》のお役人《やくにん》が、大きなお三方《さんぽう》に何《なに》か載《の》せて、その上に厚《あつ》い布《ぬの》をかけて運《はこ》んで来《き》ました。道満《どうまん》はそれを見《み》ると、こんどこそ晴明《せいめい》に先《せん》をこされまいというので、いきり立《た》って、
「ではわたくしから申《もう》し上《あ》げます。お三方《さんぽう》の上にお載《の》せになったのは、みかん十五です。」
 といいました。
 晴明《せいめい》はそれを聞《き》いて、「ふん。」と心《こころ》の中であざ笑《わら》いました。そして少《すこ》しいたずらをして、高慢《こうまん》らしい道満《どうまん》の鼻《はな》をあかせてやりたいと思《おも》いました。そこでそっと物《もの》を換《か》える術《じゅつ》を使《つか》って、お三方《さんぽう》の中の品物《しなもの》を素早《すばや》く換《か》えてしまいました。そしてすました顔《かお》をしながら、
「これはみかん十五ではございません。ねずみ十五|匹《ひき》をお入《い》れになったと存《ぞん》じます。」
 といいました。天子《てんし》さまはじめお役人《やくにん》たちはびっくりしました。こんどこそは晴明《せいめい》がしくじったと思《おも》いました。そばについていたおとうさんの保名《やすな》も真《ま》っ青《さお》になって、息子《むすこ》のそでを引《ひ》きました。けれども晴明《せいめい》はあくまで平気《へいき》な顔《かお》をしていました。道満《どうまん》は真《ま》っ赤《か》になって、
「さあ、詐欺師《さぎし》の証拠《しょうこ》は現《あらわ》れましたぞ。中を早《はや》くおあけなさい、早《はや》く。」
 とさけびました。
 お役人《やくにん》はお三方《さんぽう》の覆《おお》いをとりました。するとどうでしょう。お三方《さんぽう》の上に載《の》せたのはみかんではなくって、今《いま》の今《いま》まで晴明《せいめい》のほかだれ一人《ひとり》思《おも》いもかけなかったねずみが十五|匹《ひき》、ちょろちょろ飛《と》び出《だ》して、御殿《ごてん
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