のからすは、関東《かんとう》のからすと顔《かお》を見合《みあ》わせて、あざけるように、かあかあと笑《わら》いました。そしてまた関東《かんとう》のからすは東《ひがし》へ、京都《きょうと》のからすは西《にし》へ、別《わか》れて飛《と》んでいってしまいました。
からすの言葉《ことば》を聞《き》いて、童子《どうじ》は早速《さっそく》占《うらな》いを立《た》ててみると、なるほどからすのいったとおりに違《ちが》いありませんでしたから、おとうさんの前《まえ》へ出て、その話《はなし》をして、
「どうか、わたしを京都《きょうと》へ連《つ》れて行って下《くだ》さい。天子《てんし》さまの御病気《ごびょうき》を治《なお》して上《あ》げとうございます。」
といいました。
保名《やすな》もこれをしおに京都《きょうと》へ行《い》って、阿倍《あべ》の家《いえ》を興《おこ》す時《とき》が来《き》たと、大《たい》そうよろこんで、童子《どうじ》を連《つ》れて京都《きょうと》へ上《のぼ》りました。そして天子《てんし》さまの御所《ごしょ》に上《あ》がって、お願《ねが》いの筋《すじ》を申《もう》し上《あ》げました。天子《てんし》さまも阿倍《あべ》の仲麻呂《なかまろ》の子孫《しそん》だということをお聞《き》きになって、およろこびになり、保名親子《やすなおやこ》の願《ねが》いをお聞《き》き届《とど》けになりました。そこで童子《どうじ》はからすに聞《き》いたとおり占《うらな》いを立《た》てて申《もう》し上《あ》げました。御所《ごしょ》の役人《やくにん》たちはふしぎに思《おも》って、なかなか信用《しんよう》しませんでしたが、何《なに》しろ困《こま》りきっているところでしたから、ためしに御寝所《ごしんじょ》の東北《うしとら》の柱《はしら》の下を掘《ほ》らしてみますと、なるほど童子《どうじ》のいったとおり、火《ひ》のような息《いき》をはきかけはきかけ戦《たたか》っている蛇《へび》と蛙《かえる》を見《み》つけて、追《お》い出《だ》して、捨《す》てました。するとまもなく天子《てんし》さまの御病気《ごびょうき》は薄紙《うすがみ》をへぐように、きれいに治《なお》ってしまいました。
天子《てんし》さまは大《たい》そう阿倍《あべ》の童子《どうじ》の手柄《てがら》をおほめになって、ちょうど三|月《がつ》の清明《せいめい》の季節《きせつ》なので、名前《なまえ》を阿倍《あべ》の清明《せいめい》とおつけになり、五|位《い》の位《くらい》を授《さず》けて、陰陽頭《おんみょうのかみ》という役《やく》におとりたてになりました。後《のち》に清明《せいめい》の清《せい》の字《じ》をかえて、阿倍《あべ》の晴明《せいめい》といった名高《なだか》い占《うらな》いの名人《めいじん》はこの童子《どうじ》のことです。
四
たった十三にしかならない阿倍《あべ》の童子《どうじ》が、天子《てんし》さまの御病気《ごびょうき》を治《なお》してえらい役人《やくにん》にとりたてられたと聞《き》いて、いちばんくやしがったのは、あの石川悪右衛門《いしかわあくうえもん》のにいさんの芦屋《あしや》の道満《どうまん》でした。道満《どうまん》はその時《とき》まで日本《にっぽん》一の学者《がくしゃ》で、天文《てんもん》と占《うらな》いの名人《めいじん》という評判《ひょうばん》でしたが、こんどは天子《てんし》さまの御病気《ごびょうき》を治《なお》すことができないで、その手柄《てがら》を子供《こども》に取《と》られてしまったのですから、くやしがるのも無理《むり》はありません。そこで御所《ごしょ》へ上《あ》がって天子《てんし》さまに讒言《ざんげん》をしました。
「御用心《ごようじん》遊《あそ》ばさないといけません。あの童子《どうじ》は詐欺師《さぎし》でございます。恐《おそ》れながら、陛下《へいか》のお病《やまい》は侍医《じい》の方々《かたがた》や、わたくし共《ども》の丹誠《たんせい》で、もうそろそろ御平癒《ごへいゆ》になる時《とき》になっておりました。そこへ折《おり》よく童子《どうじ》めが来合《きあ》わせて、横合《よこあ》いから手柄《てがら》を奪《うば》っていったのでございます。御寝所《ごしんじょ》の下の蛇《へび》と蛙《かえる》のふしぎも、あれら親子《おやこ》が御所《ごしょ》の役人《やくにん》のだれかとしめし合《あ》わせて、わざわざ入《い》れて置《お》いたものかも知《し》れません。どうか軽々《かるがる》しくお信《しん》じなさらずに、一|度《ど》わたくしと法術《ほうじゅつ》比《くら》べをさせて頂《いただ》きとうございます。もしあの童子《どうじ》が負《ま》けましたらば、それこそ詐欺師《さぎし》の証拠《しょうこ》でございますから、さっそく
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