にあるということではないか。どうして行くつもりだね。わたしにはとてもそこまでおよいでは行けないよ」
「なに、わけはございません。わたくしの背中《せなか》におのりください」
 かめはこういって、背中を出しました。浦島は半分きみわるくおもいながら、いわれるままに、かめの背中にのりました。
 かめはすぐに白い波《なみ》を切って、ずんずんおよいで行きました。ざあざあいう波の音がだんだん遠《とお》くなって、青い青い水の底へ、ただもう夢《ゆめ》のようにはこばれて行きますと、ふと、そこらがかっとあかるくなって、白玉《しらたま》のようにきれいな砂《すな》の道《みち》がつづいて、むこうにりっぱな門が見えました。その奥《おく》にきらきら光って、目のくらむような金銀のいらかが、たかくそびえていました。
「さあ、りゅう[#「りゅう」に傍点]宮《ぐう》へまいりました」
 かめはこういって、浦島を背中《せなか》からおろして、
「しばらくお待ちください」
といったまま、門のなかへはいって行きました。


     二

 まもなく、かめはまた出てきて、
「さあ、こちらへ」
と、浦島を御殿《ごてん》のなかへ案内《あん
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