年にあたるのかしらん。それでは家もなくなるはずだし、おとうさんやおかあさんがいらっしゃらないのもふしぎはない」
 こうおもうと、浦島はきゅうにかなしくなって、さびしくなって、目の前がくらくなりました。いまさらりゅう[#「りゅう」に傍点]宮がこいしくてたまらなくなりました。
 しおしおとまた浜べへ出てみましたが、海の水はまんまんとたたえていて、どこがはてともしれません。もうかめも出てきませんから、どうしてりゅう[#「りゅう」に傍点]宮へわたろう手だてもありませんでした。
 そのとき、浦島はふと、かかえていた玉手箱《たまてばこ》に気がつきました。
「そうだ。この箱《はこ》をあけてみたらば、わかるかもしれない」
 こうおもうとうれしくなって、浦島は、うっかり乙姫《おとひめ》さまにいわれたことはわすれて、箱のふたをとりました。するとむらさき色の雲が、なかからむくむく立ちのぼって、それが顔にかかったかとおもうと、すうっと消えて行って箱のなかにはなんにものこっていませんでした。その代《かわ》り、いつのまにか顔じゅうしわになって、手も足もちぢかまって、きれいなみぎわ[#「みぎわ」に傍点]の水にうつっ
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