「へえ、浦島太郎。そんな人はきいたことがありませんよ」
といいました。浦島はやっきとなって、
「そんなはずはありません。たしかにこのへんに住んでいたのです」
といいました。
 そういわれて、おばあさんは、
「はてね」と、首《くび》をかしげながら、つえでせいのびしてしばらくかんがえこんでいましたが、やがてぽんとひざをたたいて、
「ああ、そうそう、浦島太郎さんというと、あれはもう三百年も前の人ですよ。なんでも、わたしが子どものじぶんきいた話に、むかし、むかし、この水《みず》の江《え》の浜に、浦島太郎という人があって、ある日、舟にのってつりに出たまま、帰ってこなくなりました。たぶんりゅう[#「りゅう」に傍点]宮《ぐう》へでも行ったのだろうということです。なにしろ大昔《おおむかし》の話だからね」
 こういって、また腰《こし》をかがめて、よぼよぼあるいて行ってしまいました。
 浦島はびっくりしてしまいました。
「はて、三百年、おかしなこともあるものだ。たった三年りゅう[#「りゅう」に傍点]宮にいたつもりなのに、それが三百年とは。するとりゅう[#「りゅう」に傍点]宮《ぐう》の三年は、人間の三百
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