うが舞《ま》ったりしていました。
次に、南の戸をおあけになりました。そこは夏のけしきで、垣根《かきね》には白いう[#「う」に傍点]の花が咲いて、お庭の木の青葉《あおば》のなかでは、せみやひぐらし[#「ひぐらし」に傍点]がないていました。お池には赤と白のはすの花が咲いて、その葉の上には、水晶《すいしょう》の珠《たま》のように露《つゆ》がたまっていました。お池のふちには、きれいなさざ波《なみ》が立って、おしどり[#「おしどり」に傍点]やかも[#「かも」に傍点]がうかんでいました。
次に西の戸をおあけになりました。そこは秋のけしきで花壇《かだん》のなかには、黄ぎく、白《しら》ぎくが咲き乱れて、ぷんといいかおりを立てました。むこうを見ると、かっともえ立つようなもみじの林の奥《おく》に、白い霧《きり》がたちこめていて、しかのなく声がかなしくきこえました。
いちばんおしまいに、北の戸をおあけになりました。そこは冬のけしきで、野には散《ち》りのこった枯葉《かれは》の上に、霜《しも》がきらきら光っていました。山から谷にかけて、雪がまっ白に降り埋《うず》んだなかから、柴《しば》をたくけむりがほそぼそとあがっていました。
浦島は何を見ても、おどろきあきれて、目ばかり見はっていました。そのうちだんだんぼうっとしてきて、お酒に酔《よ》った人のようになって、何もかもわすれてしまいました。
三
毎日おもしろい、めずらしいことが、それからそれとつづいて、あまりりゅう[#「りゅう」に傍点]宮がたのしいので、なんということもおもわずに、うかうかあそんでくらすうち、三年の月日がたちました。
三年めの春になったとき、浦島はときどき、ひさしくわすれていたふるさとの夢《ゆめ》を見るようになりました。春の日のぽかぽかあたっている水《みず》の江《え》の浜べで、りょうしたちがげんきよく舟うたをうたいながら、網《あみ》をひいたり舟をこいだりしているところを、まざまざと夢に見るようになりました。浦島はいまさらのように、
「おとうさんや、おかあさんは、いまごろどうしておいでになるだろう」
と、こうおもい出すと、もう、いても立ってもいられなくなるような気がしました。なんでも早くうちへ帰りたいとばかりおもうようになりました。ですから、もうこのごろでは、歌をきいても、踊《おど》りを見ても、おもしろ
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