ない》しました。たい[#「たい」に傍点]や、ひらめ[#「ひらめ」に傍点]やかれい[#「かれい」に傍点]や、いろいろのおさかなが、ものめずらしそうな目で見ているなかをとおって、はいって行きますと、乙姫《おとひめ》さまがおおぜいの腰元《こしもと》をつれて、お迎《むか》えに出てきました。やがて乙姫《おとひめ》さまについて、浦島はずんずん奥《おく》へとおって行きました。めのう[#「めのう」に傍点]の天井《てんじょう》にさんご[#「さんご」に傍点]の柱、廊下《ろうか》にはるり[#「るり」に傍点]がしきつめてありました。こわごわその上をあるいて行きますと、どこからともなくいいにおいがして、たのしい楽《がく》の音《ね》がきこえてきました。
やがて、水晶《すいしょう》の壁《かべ》に、いろいろの宝石《ほうせき》をちりばめた大広間《おおひろま》にとおりますと、
「浦島さん、ようこそおいでくださいました。先日はかめのいのちをお助《たす》けくださいまして、まことにありがとうございます。なんにもおもてなしはございませんが、どうぞゆっくりおあそびくださいまし」
と、乙姫さまはいって、ていねいにおじぎしました。やがて、たい[#「たい」に傍点]をかしらに、かつお[#「かつお」に傍点]だの、ふぐ[#「ふぐ」に傍点]だの、えび[#「えび」に傍点]だの、たこ[#「たこ」に傍点]だの、大小いろいろのおさかなが、めずらしいごちそうを山とはこんできて、にぎやかなお酒盛《さかもり》がはじまりました。きれいな腰元《こしもと》たちは、歌をうたったり踊《おど》りをおどったりしました。浦島はただもう夢《ゆめ》のなかで夢を見ているようでした。
ごちそうがすむと、浦島はまた乙姫さまの案内《あんない》で、御殿《ごてん》のなかをのこらず見せてもらいました。どのおへやも、どのおへやも、めずらしい宝石でかざり立ててありますからそのうつくしさは、とても口やことばではいえないくらいでした。ひととおり見てしまうと、乙姫《おとひめ》さまは、
「こんどは四季のけしきをお目にかけましょう」
といって、まず、東の戸をおあけになりました。そこは春のけしきで、いちめん、ぼうっとかすんだなかに、さくらの花が、うつくしい絵のように咲き乱《みだ》れていました。青青《あおあお》としたやなぎの枝《えだ》が風になびいて、そのなかで小鳥がないたり、ちょうちょ
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