から二、三日たって、浦島はまた舟にのって海へつりに出かけました。遠い沖《おき》のほうまでもこぎ出して、一生《いっしょう》けんめいおさかなをつっていますと、ふとうしろのほうで
「浦島さん、浦島さん」
とよぶ声がしました。おやとおもってふりかえってみますと、だれも人のかげは見えません。その代《かわ》り、いつのまにか、一ぴきのかめが、舟のそばにきていました。
浦島がふしぎそうな顔をしていると、
「わたくしは、先日|助《たす》けていただいたかめでございます。きょうはちょっとそのお礼《れい》にまいりました」
かめがこういったので、浦島はびっくりしました。
「まあ、そうかい。わざわざ礼なんぞいいにくるにはおよばないのに」
「でも、ほんとうにありがとうございました。ときに、浦島さん、あなたはりゅう[#「りゅう」に傍点]宮《ぐう》をごらんになったことがありますか」
「いや、話にはきいているが、まだ見たことはないよ」
「ではほんのお礼のしるしに、わたくしがりゅう[#「りゅう」に傍点]宮を見せて上げたいとおもいますがいかがでしょう」
「へえ、それはおもしろいね。ぜひ行ってみたいが、それはなんでも海の底にあるということではないか。どうして行くつもりだね。わたしにはとてもそこまでおよいでは行けないよ」
「なに、わけはございません。わたくしの背中《せなか》におのりください」
かめはこういって、背中を出しました。浦島は半分きみわるくおもいながら、いわれるままに、かめの背中にのりました。
かめはすぐに白い波《なみ》を切って、ずんずんおよいで行きました。ざあざあいう波の音がだんだん遠《とお》くなって、青い青い水の底へ、ただもう夢《ゆめ》のようにはこばれて行きますと、ふと、そこらがかっとあかるくなって、白玉《しらたま》のようにきれいな砂《すな》の道《みち》がつづいて、むこうにりっぱな門が見えました。その奥《おく》にきらきら光って、目のくらむような金銀のいらかが、たかくそびえていました。
「さあ、りゅう[#「りゅう」に傍点]宮《ぐう》へまいりました」
かめはこういって、浦島を背中《せなか》からおろして、
「しばらくお待ちください」
といったまま、門のなかへはいって行きました。
二
まもなく、かめはまた出てきて、
「さあ、こちらへ」
と、浦島を御殿《ごてん》のなかへ案内《あん
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