であった。
かれはわたしを覚《おぼ》えていた。かれの青ざめた顔はにっこり笑《わら》った。
「ああ、きみだね」とかれは言った。「きみは先《せん》に白いひげのおじいさんとガロフォリのうちへ来たね。ちょうどぼくが病院へ行こうとするまえだった。ああ、あれからぼくはどんなにこの頭でなやんだろう」
「ガロフォリはまだきみの親方なのかい」
かれは返事をするまえにそこらを見回して、それから声をひそめて言った。
「ガロフォリは刑務所《けいむしょ》にはいっているよ。オルランドーを打ち殺《ころ》したので連《つ》れて行かれたのだ」
わたしはこの話を聞いてぎょっとした。でもわたしはガロフォリが刑務所に入れられたと聞いてうれしかった。初《はじ》めてわたしは、あれほどおそろしいものに思いこんでいた刑務所が、これはなるほど役に立つものだと考えた。
「それでほかの子どもたちは」とわたしはたずねた。
「ああ、ぼくは知らないよ。ガロフォリがつかまったときには、ぼくはいなかった。ぼくが病院から出て来ると、ぼくは病気で、もうぶっても役に立たないと思って、あの人はわたしを手放したくなった。そこであの人はわたしを二年のあいだ
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