》通りの本屋へ行けば、それの得《え》られることを知っていたので、わたしは川のほうへ足を向けた。やっとわたしは十五スーで、ずいぶん黄色くなった地図を見つけた。
 わたしはそれでパリを去ることができるのであった。すぐわたしはそれをすることに決めた。わたしは二つの道の一つを選《えら》ばなければならなかった。わたしはフォンテンブローへの道を選んだ。リュウ・ムッフタールの通りへ来かかると、山のような記憶《きおく》が群《むら》がって起こった。ガロフォリ、マチア、リカルド、錠前《じょうまえ》のかかったスープなべ、むち、ヴィタリス老人《ろうじん》、あの気のどくな善良《ぜんりょう》な親方。わたしをこじきの親分へ貸《か》すことをきらったために、死んだ人。
 お寺のさくの前を通ると、子どもが一人かべによっかかっているのを見た。その子はなんだか見覚《みおぼ》えがあるように思った。
 確《たし》かにそれはマチアであった。大きな頭の、大きな目の、優《やさ》しい、いじけた目つきの子どものマチアであった。けれどかれはちっとも大きくはなっていなかった。わたしはよく見るためにそばへ寄《よ》った。ああそうだ、そうだ、マチア
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