かれがほえ続《つづ》けたときわたしは初《はじ》めて、かれに注意を向けてやらなければならなかった。
「カピ、なんの用だい」とわたしはたずねた。かれはわたしの顔をながめた。けれどわたしはかれの意味が解《と》けなかった。かれはしばらく待っていたが、やがてわたしの前に来て、時計を入れたかくしの上に前足をのせて立った。かれはヴィタリス親方といっしょに働《はたら》いていたじぶんと同じように、「ご臨席《りんせき》の貴賓諸君《きひんしょくん》」に時間を申し上げる用意をしていたのであった。
わたしは時計をかれに見せた。かれはしばらく思い出そうと努《つと》めるように、しっぽをふりながらそれを、ながめたが、やがて十二|度《たび》ほえた。かれは忘《わす》れてはいなかった。わたしたちはこの時計でお金を取ることができる。これはわたしがあてにしていなかったことであった。
前へ進め、子どもたち。わたしは刑務所《けいむしょ》に最後《さいご》の目をくれた。そのへいの後ろにはリーズの父親が閉《と》じこめられているのだ。
それからずんずん進んで行った。なによりもわたしに入り用なものは、フランスの地図であった。河岸《かし
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