七時ごろ今度はエチエネットがわたしを庭へ連《つ》れ出した。
「ルミ、わたしあなたにほんのお形見をあげようと思うの」とかの女は言った。「この小ばこを納《おさ》めてください。わたしのおじさんがくれたものだから。中には糸と針《はり》とはさみがはいっています。旅をして歩くと、こういうものが入り用なのよ。なにしろわたしがそばにいて、着物のほころびを直したり、ボタンをつけたりしてあげることができないのだからねえ。それでわたしのはさみを使うときにはわたしたちみんなのことを思い出してください」
 エチエネットがわたしと話をしているあいだ、アルキシーがそばをぶらついていた。かの女がわたしを置《お》いて、うちの中へはいると、かれはやって来て、
「ねえ、ルミ」とかれは言いだした。「ぼくは五フランの銀貨《ぎんか》を二つ持っている。一つあげよう。きみがもらってくれると、ぼくはずいぶんうれしいんだ」
 わたしたち五人のうちで、アルキシーはたいへん金をだいじにする子であった。わたしたちはいつもかれの欲張《よくば》りをからかっていた。かれは一スー、二スーと貯金《ちょきん》してしじゅう貯金の高《たか》を勘定《かんじょ
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