う》していた。かれは一スーずつためては新しい十スー、二十スーの銀貨《ぎんか》とかえてだいじに持っていた。そういうかれの申し出は、わたしを心から感動させた。わたしは断《ことわ》りたかったけれど、かれはきらきらする銀貨をわたしの手に無理《むり》ににぎらせた。わたしはだいじにしている宝《たから》が分けてくれようというかれの友情《ゆうじょう》がひじょうに強いものであることを知った。
バンジャメンもわたしを忘《わす》れはしなかった。かれはやはりわたしにおくり物をしようと思った。かれはわたしにナイフをくれて、それと交換《こうかん》に、一スー請求《せいきゅう》した。なぜなら、ナイフは友情《ゆうじょう》を切るものだから。
時間はかまわずずんずんたっていった。いよいよわたしたちの別《わか》れる時間が来た。
リーズはぼくのことをなんと思っているだろう。馬車がうちの前に近づいて来たときに、リーズがまたわたしに庭までついて来いという手まねをした。
「リーズ」とかの女のおばさんが呼《よ》んだ。
かの女はそれには返事をしないで急いでかけ出して行った。かの女は庭のすみに一本|残《のこ》っていた大きなベンガル
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