れば、夜になって宿《やど》をたのむこともできよう。けれどこうパリの近くでは……このへんで宿をたのむことはできない。さあ」
二足三足行くとわたしは横へはいる道を見つけたように思った。ちょうどいばらのやぶらしく思われる黒いかたまりもあった。わたしは先へ急いで行くために親方の手を放した。往来《おうらい》には深いわだちのあとが残《のこ》っていた。
「ほら、ここに輪《わ》のあとがある」とわたしはさけんだ。
「手をお貸し。わたしたちは救《すく》われた」と親方が言った。「ご覧《らん》、今度は森が見えるだろう」
わたしはなにか黒いものが見えたので、森が見えるように思うと言った。
「五分のうちにそこまで行ける」とかれはつぶやいた。
わたしたちはとぼとぼ歩いた。けれどこの五分間が永遠《えいえん》のように思われた。
「車の輪《わ》のあとはどちらにあるね」
「右のほうにあります」
「石切り場の入口は左のほうだよ。わたしたちは気がつかずに通り過《す》ぎてしまったにちがいない。あともどりするほうがいいだろう」
「輪《わ》のあとはどうしても左のほうにはついていません」
「ではまたあともどりだ」
もう一度わた
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