「それからスープをこしらえるのもうまいや」
「おばさん、あの子はうちの人です。そうです、うちの人です」という声がほうぼうから起こった。リーズが前へ出て来て、おばさんの前で手を合わせた。それはことばで言う以上《いじょう》の意味を表していた。
「まあまあ、かわいそうに」と、カトリーヌおばさんは言った。「おまえがあの子をいっしょに連《つ》れて行きたがっていることはわかっている。けれど世の中というものはいつも思うようにはならないものなのだよ。おまえはわたしのめいだから、おまえをうちへ連れて行って、おじさんにいやな顔をされても、わたしは『でも親類《しんるい》だから』と言って通してしまうつもりだ。ほかのセン・カンテンのおじさんにしても、ヴァルスのおじさんにしても、エナンデのおばさんにしても、そのとおりだろうよ。やっかいだと思っても、親類なら養《やしな》ってくれるだろう。けれど他人ではそうはゆかない。一つうちの者だけでも、腹《はら》いっぱい食べるだけのパンはむずかしいのだからね」
 わたしはもうなにも言うことがないように思った。かの女の言ったことはもっともすぎることであった。わたしはうちの者では
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