ながら立っていた。だれ一人ものを言う者はなかった。
カトリーヌおばさんは一|時間《じかん》おくれてやって来た。わたしたちはまだはげしく泣いていた。いちばん気丈《きじょう》なエチエネットすら今度の大波にはすっかり足をさらわれた。わたしたちの水先案内《みずさきあんない》が海に落ちたので、あとの子どもたちはかじを失《うしな》って、波のまにまにただようほかはなかった。
ところでカトリーヌおばさんはなかなかしっかりした婦人《ふじん》であった。もとはパリの街《まち》で乳母奉公《うばぼうこう》をして、十年のあいだに五か所も勤《つと》めた。世の中のすいもあまいもよく知っていた。わたしたちはまたたよりにする目標《もくひょう》ができた。教育もなければ、資産《しさん》もないいなか女としてかの女にふりかかった責任《せきにん》は重かった。びんぼうになった一家の総領《そうりょう》はまだ十六にならない。いちばん下はおしのむすめであった。
カトリーヌおばさんは、ある公証人《こうしょうにん》のうちに乳母《うば》をしていたことがあるので、かの女はさっそくこの人を訪《たず》ねて相談《そうだん》をした。そこでこの人が助
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