って来た。それでわたしたちはかけ出して大きな門の下のトンネルに避難《ひなん》しなければならなかった。ひょうの夕立ち。たちまち道はまっ白に冬のようになった。ひょうの大きさははとの卵《たまご》ぐらいあった、落ちるときには耳の遠くなるような音を立てた。もうしじゅうガラスのこわれる音が聞こえた、ひょうが屋根から往来《おうらい》へすべり落ちるとともに、屋根やえんとつのかわらや石板やいろんなものがこわれて落ちた。
「ああ、これではガラスのフレームも」とエチエネットがさけんだ。
わたしも同じ考えを持った。
「お父さんはたぶんまに合ったでしょうね」
「ひょうの降《ふ》るまえに着いたにしても、ガラスにむしろをかぶせるひまはなかったでしょう。なにもかもこわれてしまったでしょうよ」
「ひょうは所どころまばらに落ちるものだそうですよ」と、わたしはまだそれでも無理《むり》に希望《きぼう》をかけようとして言った。
「おお、それにはあんまりうちが近すぎます。もしうちの庭にここと同じだけ降《ふ》ったら、父さんはお気のどくなほど大損《おおぞん》になってしまいます。父さんはこの花を売って、いくらお金をもうけてどうすると
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