さえなければならなかった。空にいなずまがひらめいて、はげしいかみなりが鳴った。
エチエネットとわたしがリーズの手を引《ひ》っ張《ぱ》った。わたしたちはもっと早くかの女を引っ張ろうと試《こころ》みたが、かの女はわたしたちと歩調を合わせることは困難《こんなん》であった。あらしの来るまえにうちへ帰れようか。お父さんとバンジャメンとアルキシーはあらしの起こるまえにうちに着いたろうか。かれらがガラスのフレームを閉《し》めるひまさえあれば、風が下からはいって引っくり返すことはないであろう。
雷鳴《らいめい》がはげしくなった。雲がいよいよ深くなって、もうほとんど夜のように思われた。
風に雲のふきはらわれたとき、その深い銅《あかがね》色の底《そこ》が見えた。雲はやがて雨になるであろう。
がらがら鳴り続《つづ》ける雷鳴《らいめい》の中に、ふと、ごうっというひどいひびきがした。一|連隊《れんたい》の騎兵《きへい》があらしに追われてばらばらとかけてでも来るような音であった。
とつぜんばらばらとひょうが降《ふ》って来た。はじめすこしばかりわたしたちの顔に当たったと思ううちに、石を投げるように降《ふ》
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