ルだの、マリだの、ルイだのと呼《よ》ばれる名前の人たちの数はおびただしいもので、したがってそういう祝《いわ》い日《び》には、花たばやら花びんを買って、名づけ親やお友だちにおくってお祝《いわ》いをしなければならない人が限《かぎ》りなく多かった。
 だから、この祝い日の前夜には、パリの通りは花でいっぱいになる。ふつうの店や市場だけではない。往来《おうらい》のすみずみ、家いえの石段《いしだん》、そのほかちょっとした店を開くことのできる場所にはきっと花を売っていた。
 アッケンのお父さんは、においあらせいとう[#「においあらせいとう」に傍点]の季節《きせつ》がすむと、七月、八月の祝《いわ》い日《び》の用意にせっせとかかっていた。とりわけ八月には、セン・マリ、セン・ルイの大祝日《だいしゅくじつ》があるので、これを当てこんで何千本というえぞぎく[#「えぞぎく」に傍点]、フクシア、きょうちくとう[#「きょうちくとう」に傍点]などを温室や温床《おんしょう》にはいりきらないほどしこんでおいた。これらの花はどれも、ちょうどその当日に早すぎずおそすぎず花ざかりというふうに作らなければならないので、そこにうで
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