でいく年かのあいだためた金を書物を買うために使ったし、その本を読むために休みの時間を費《ついや》した。けれど結婚《けっこん》して子どもができてからは、休みの時間がごくまれになった。なによりもその日その日のパンをもうけなければならなかった。しぜん書物からはなれたが、捨《す》てられたわけでもなく、売りはらわれたわけでもなかった。わたしが初《はじ》めてむかえた冬はたいへん長かったし、花畑の仕事はほとんど中止同様に、少なくとも何か月のあいだの仕事はひまであった。それでわたしたちは炉《ろ》を囲《かこ》んで、いっしょにくらす晩《ばん》などには、そういう古い本をたんすから引き出して、めいめいに分けて読んだ。それはたいてい植物学の本か植物の歴史《れきし》のほかには、航海《こうかい》に関係《かんけい》した本であった。アルキシーとバンジャメンはお父さんの学問の趣味《しゅみ》を受けついでいなかったから、せっかく本を開けても三、四ページもめくるとすぐいねむりを始めるのであった。わたしはしかしそんなにねむくはなかったし、ずっと本が好《す》きだったので、いよいよねどこにはいらなければならない時間まで読んでいた。こ
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