うなるとヴィタリスの手ほどきをしてくれた利益《りえき》がむだにはならなかった。わたしはねながらそれを独《ひと》り言《ごと》に言って、かれのことをありがたく思い出していた。
わたしがものを学びたいという望《のぞ》みは、はしなくお父さんに、自分もむかし本を買うために毎朝|朝飯《あさめし》のお金を二スー倹約《けんやく》したむかしを思い出させた。それでたんすの中にあった書物のほかの本までパリからわざわざ買って来てくれた。その書物の選《えら》び方《かた》はでたらめか、さもなければ表題《ひょうだい》のおもしろいものをつかみ出して来るにすぎなかったが、やはり書物は書物であった。これはそのじぶん秩序《ちつじょ》もなく、わたしの心にはいっては来たが、いつまでも消えることはなかった。それはわたしに利益《りえき》を残《のこ》した。いいところだけが残った。なんでも本を読むのは利益だということは、ほんとうのことである。
リーズは本を読むことを知らなかったが、わたしが一時間でもひまがあれば、本と首っぴきをしているのを見て、なにがそんなにおもしろいのだろう、そのわけを知りたがっていた。初《はじ》めのうちはかの女
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