ツはわたしたちのそれよりも、もっとびっしょりあせにぬれていた。みんな平等であるということは、苦労《くろう》の中の大きな楽しみであった。そのうえわたしはもうまったく失《うしな》ったと思ったものを回復《かいふく》した。それは家族の生活であった。わたしはもう独《ひと》りぼっちではなかった。世の中に捨《す》てられた子どもではなかった。わたしには自分の寝台《ねだい》があった。わたしはみんなの集まる食卓《しょくたく》に自分の席《せき》を持っていた。昼間ときどきアルキシーやバンジャメンがわたしにげんこつをみまうこともあったが、わたしはなんとも思わなかった。またわたしが打ち返しても、かれらはなんとも思わなかった。そうして晩《ばん》になれば、みんなスープを取り巻《ま》いて、また兄弟にも友だちにもなるのであった。
ほんとうを言うと、わたしたちは働《はたら》いてつかれるということはなかった。わたしたちにも休憩《きゅうけい》の時間も遊ぶ時間もあった。むろんそれは短かったが、短いだけよけいゆかいであった。
日曜の午後には家についているぶどうだなの下にみんな集まった。わたしはその週のあいだかけっぱなしにしてお
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