ポプラの若木《わかぎ》からはねっとりとやにが流れていた。そうしてうずら[#「うずら」に傍点]や、こまどり[#「こまどり」に傍点]や、ひわ[#「ひわ」に傍点]やなんぞの鳥が、ここはまだいなかで、町ではないというように歌を歌っていた。
これがわたしの見た小さな谷の景色《けしき》であった――その後ずいぶん変《か》わったが――それでもわたしの受けた印象《いんしょう》はあざやかに記憶《きおく》に残《のこ》っていて、ついきのうきょうのように思われる。わたしに絵がかけるなら、このポプラの林の一|枚《まい》の葉をも残《のこ》すことなしにえがき出したであろう――また大きなやなぎの木を、頭の先の青くなった、とげのあるさんざしといっしょにかいたであろう。それはやなぎのかれたような幹《みき》の間に根を張《は》っていた。また砲台《ほうだい》の傾斜地《けいしゃち》をわたしたちはよく片足《かたあし》で楽にすべって下りた――それもかきたい。あの風車といっしょにうずら[#「うずら」に傍点]が丘《おか》の絵もかきたい――セン・テレーヌ寺の庭に群《むら》がっていたせんたく女もえがきたい。それから川の水をよごれくさらせてい
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