た製革《せいかく》工場もかきたい――
もちろんこういう散歩《さんぽ》のおり、リーズはものは言えなかったが、きみょうなことに、わたしたちはなにもことばの必要《ひつよう》はなかった。わたしたちはおたがいにものを言うことなしに、了解《りょうかい》し合っているように思われた。
そのうちにわたしにも、みんなといっしょに働《はたら》けるだけじょうぶになる日が来た。わたしはその仕事を始める日を待ちかねていた。それはわたしのためにこれだけつくしてくれた親切な友だちに、こちらからもなにかしてやりたいと思っていたからであった。わたしはこれまで仕事らしい仕事をしたことがなかった。長い流浪《るろう》の旅はつらいものではあるが、どうでもこれだけ仕上げなければというように、いっしょうけんめい張《は》りこんでする仕事はなにもなかった。けれど今度こそわたしは、じゅうぶんに働《はたら》かなければならないと感じた。少なくともぐるりにいる人たちをお手本にして、元気を出さなければならないと思った。このごろはちょうどにおいあらせいとう[#「においあらせいとう」に傍点]がパリの市場に出始める季節《きせつ》であった。それには赤
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