うとう犬を慣《な》らして、大道《だいどう》の見世物師《みせものし》にまで落ちることになりました。けれどいくらなり下がってもやはり気位《きぐらい》が高く、これが有名なカルロ・バルザニのなれの果《は》てだということを世間に知られるくらいなら、はずかしがって死んだでしょう。わたしがあの男の秘密《ひみつ》を知ったのは、ほんのぐうぜんのことでした」
 これが長いあいだ心にかかっていた秘密の正体であった。
 気のどくなカルロ・バルザニ。なつかしいヴィタリス親方。


     植木屋


 そのあくる日ヴィタリスをほうむらなければならなかった。アッケン氏《し》はわたしをお葬式《そうしき》に連《つ》れて行くやくそくをした。
 けれどその日わたしは起き上がることができなかった。夜のうちにひじょうに具合が悪くなった。ひどい熱《ねつ》が出て、はげしい寒けを感じた。わたしの胸《むね》の中は、小さなジョリクールがあの晩《ばん》木の上で過《す》ごしたとき受けたと同様、焼《や》きつくやうな熱気《ねっき》を感じた。
 実際《じっさい》わたしは胸にはげしい※[#「火+欣」、第3水準1−87−48]衝《きんしょう》(焼
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