れでこれからは……」署長《しょちょう》がたずねた。
「わたくしどもでこの子を引き取ろうと思います」とわたしの新しい友人がことばをはさんだ。
「それをお許《ゆる》しくださいますならば」
 署長《しょちょう》は喜《よろこ》んでわたしをかれの手に委任《いにん》すると言った。そのうえその親切な心がけをほめた。
 自分のことはそれでいいとして、今度は親方のことを言わなければならなかった。でもまったくなんにも知らないのが事実であった。
 ただ一つわからないことは、最後《さいご》の興行《こうぎょう》のとき、どこかの夫人《ふじん》が天才《てんさい》だと言っておどろいたこと、それからガロフォリがむかしの名前をどうとか言いだして、かれをおどしたことであった。
 けれど親方があれほどかくしていたことを死んだのちにあばき立てることはいらない。でもそうは思いながら、事に慣《な》れた警官《けいかん》の前で子どもがかくしおおせるものではなかった。かれらはわけなくわなにかけて、かくしたいと思うことをずんずん言わせてしまうのである。わたしの場合がやはりそれであった。
 署長《しょちょう》はさっそくわたしから、ガロフォリ
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