のひざの上にとび上がって顔をなめ始めた。
 それからとび下りて、わたしの上着のそでを引き始めた。
「あの犬はわたしを外へ連《つ》れ出そうというのです」
「おまえの親方の所へ行こうというのだよ」
 親方を引き取って行った巡査《じゅんさ》は、わたしが暖《あたた》まって正気づいたら、聞きたいことがあると言ったそうだ。その巡査がいつ来るか、あやふやであった。
 でもわたしは早く報告《ほうこく》を聞きたいと思った。たぶん親方はみんなの思ったように死んではいないのだ。たぶん親方はまだ生きて帰れるのだ。
 わたしの心配そうな顔を見て、お父さんはわたしを警察《けいさつ》へ連《つ》れて行ってくれた。
 警察へ行くとわたしは長ながと質問《しつもん》された。けれどわたしはいよいよ気のどくな親方がまったく死んだという宣告《せんこく》を聞くまでは、なにも申し立てようとはしなかった。わたしは知っているだけのことは述《の》べたが、それはほんのわずかのことであった。わたし自身については、せいぜい両親のないこと、親方が前金で養母《ようぼ》の夫《おっと》に金をはらってわたしをやとったこと、それだけしか言えなかった。
「そ
前へ 次へ
全326ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング