場にねむろうとして失敗《しっぱい》して、それからあとの始末を一とおり話しかけて、やっと五分たつかたたないうちに、園《その》に向かっているドアを引っかく音が聞こえた。それから悲しそうにくんくん鳴く声がした。
「カピだ。カピだ」わたしはさけんですぐとび上がった。
けれどもリーズがわたしより早かった。かの女はもうかけ出してドアを開けていた。
カピがわたしにとびかかって来た。わたしはかれをうでにかかえた。小さな喜《よろこ》びのほえ声をたてて、全身をふるわせながら、かれはわたしの顔をなめた。
「するとカピは……」とわたしはたずねた。わたしの問いはすぐに了解《りょうかい》された。
「うん、むろんカピもいっしょにおくよ」とお父さんが言った。
カピはわたしたちの言っていることがわかったというように、地べたにとび下りて、前足を胸《むね》に置《お》いておじぎをした。それが子どもたち、とりわけリーズを笑《わら》わせた。で、よけいかれらを喜《よろこ》ばせるために、わたしはカピに、いつもの芸《げい》をすこしして見せろと望《のぞ》んだ。けれどもかれはわたしの言いつけに従《したが》う気がなかった。かれはわたし
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