、そのあいだときどき口をはさんで、所どころ要点《ようてん》を確《たし》かめるだけであった。わたしはこれほどの熱心《ねっしん》をもって話を聞いてもらったことがなかった。かの女の目はすこしもわたしからはなれなかった。
わたしが話をしてしまったとき、かの女はしばらくだまって、わたしの顔を見つめていた。最後《さいご》にかの女は言った。
「これはなかなか重大なことだから、よく考えなければならない。けれどいまからあなたはアーサのお友だち……」
こう言ってかの女はすこしちゅうちょしながら、「兄弟だと思ってください。二時間たったら、ザルプというホテルへ来てください。さしあたりそこに待っていてくれれば、だれか人を寄《よ》こしてそちらへ案内《あんない》させますから。ではしばらくごめんなさいよ」
ふたたび夫人《ふじん》はわたしにキッスした。そしてマチアと握手《あくしゅ》をして、足早に歩いて行った。
「きみはミリガン夫人《ふじん》になにを話したのだ」とわたしはマチアに質問《しつもん》した。
「あの人がいまきみに言っただけのことさ。それからまだいろいろなことをね」とかれは答えた。
「ああ、あの人は親切なお
前へ
次へ
全326ページ中309ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング