けばいいのだ。
それで毎日|根《こん》よくほうぼうへ出かけて、演芸《えんげい》をやって歩いた。けれどまだミリガン夫人《ふじん》の手がかりはなかった。
わたしたちは湖水から山へ、山から湖水へ、右左を見て、しじゅう往来《おうらい》の人の顔つきをのぞいたり、ことばを聞いて、返事をしてくれそうな人にたずねて歩いた。ある人はわたしたちを山の中腹《ちゅうふく》に造《つく》りかけた別荘《べっそう》へ行かせた。また一人は、その人たちは湖水のそばに住んでいると断言《だんげん》した。なるほど山の別荘に住んでいるのもイギリスのおくさんであった。湖水のそばに家を持っていたのもイギリスのおくさんであったが、わたしたちのたずねるミリガン夫人《ふじん》ではなかった。
ある日の午後、わたしたちは例《れい》のとおり往来《おうらい》のまん中で音楽をやっていた。そこに大きな鉄の門のある家があった。母屋《おもや》は園《その》のおくに引っこんで建《た》っていた。前には石のかべがあった。わたしはありったけの高い声で歌を歌っていた。例のナポリの小唄《こうた》の第一|節《せつ》を歌って第二節にかかろうとしていたとき、か細いきみ
前へ
次へ
全326ページ中304ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング