、かれは悲しみに打たれて、絶《た》えずくちびるを動かしながら、こうつぶやいているように思われた。
「おれはくい改《あらた》める。おれはくい改める」
 やがてパージュとベルグヌーがさけびだした。
「もうおそいや、もうおそいや。きさまはいまこわくなったのでくい改めるのだ。きさまは一年まえにくい改めなければならなかったのだ」
 かれは苦しそうに、ため息をついていた。けれどまだくり返していた。
「おれはくい改《あらた》める。おれはくい改める」
 かれはひどい熱《ねつ》にかかっていた。かれの全身はふるえて、歯はがたがた鳴っていた。
「おれはのどがかわいた」とかれは言った。「その長ぐつを貸《か》してくれ」
 もう長ぐつに水はなかった。わたしは立ち上がって取りに行こうとした。けれどそれを見つけたパージュがわたしを呼《よ》び止めた。同時にガスパールおじさんがわたしの手をおさえた。
「もうあいつにはかまわないとやくそくしたのだ」とかれは言った。
 しばらくのあいだ、コンプルーはのどがかわくと言い続《つづ》けた。わたしたちがなにも飲み物をくれないとみて、かれは自分で立ち上がって、水のほうへ行きかけた。

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