てきた。
わたしはひじょうにねむくなった。この場所はねるのにつごうのいい場所ではなかった。じきに水の中に転《ころ》がり落ちそうであった。すると「先生」はわたしの危《あぶ》なっかしいのを見て、かれの胸《むね》にわたしの頭をつけて、わたしのからだをうででおさえてくれた。かれはたいしてしっかりおさえてはいなかったが、わたしが落ちないだけにはじゅうぶんであった。わたしはそこで母のひざにねむる子どものようにねむった。
わたしが半分目が覚《さ》めて身動きすると、かれはただきつくなった自分のうでの位置《いち》を変えた。そして自分は動かずにすわっていた。
「お休み、ぼうや」とかれはわたしの上にのぞきこんでささやいた。「こわいことはない。わたしがおさえていてあげるからな」
それでわたしは恐怖《きょうふ》なしにねむった。かれがけっして手をはなさないことをわたしはよく知っていた。
救助《きゅうじょ》
わたしたちは時間《じかん》の観念《かんねん》がなくなった。そこに二日いたか、六日いたか、わからなかった。意見がまちまちであった。もうだれも救《すく》われることを考えてはいなかった。死ぬこ
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