」とわたしはさけんだ。「首を上に上げていれば助かりますよ」
助かると。どうして二人とも助かるどころではなかった。わたしはどちらへ泳いでいいかわからなかった。
「ねえ、だれか、声をかけてください」とわたしはさけんだ。
「ルミ、どこだ」
こう言ったのはガスパールおじさんの声であった。
「ランプをつけてください」
ランプが暗やみの中から探《さぐ》り出されて、すぐに明かりがついた、わたしはただ手をのばせば土手にさわることができた。片手《かたて》で石炭のかけらをつかんで、わたしは老人《ろうじん》を引き上げた。もう、少しで危《あぶ》ないところであった。
かれはもうたくさんの水を飲んでいて、半分|人事不省《じんじふせい》であった。わたしはかれの頭をうまく水の上に上げてやったので、どうにかかれは上がって来た。仲間《なかま》はかれの手を取って引き上げる。わたしは後からおし上げた。わたしはそのあとで今度は自分がはい上がった。
このふゆかいな出来事で、しばらくわたしたちの気を転じさせたが、それがすむとまた圧迫《あっぱく》と絶望《ぜつぼう》におそわれた。それとともに死が近づいたという考えがのしかかっ
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