《うしな》っていた。それでしじゅうばかにしてした老人の声に、いまはついて行こうとする気持ちになっていた。ランプがかれにわたされた。かれはそれを持って先に立ちながら、いっしょにわたしを引《ひ》っ張《ぱ》って行った。かれはだれよりもよく鉱坑《こうこう》のすみずみを知っていた。水はもうわたしのこしまでついていた。「先生」はわたしたちをいちばん近い竪坑《たてこう》に連《つ》れて行った。二人の坑夫《こうふ》はしかしそれは地獄《じごく》へ落《お》ちるようなものだと言って、はいるのをこばんだ。かれらはろうかをずんずん歩いて行った。わたしたちはそれからもう二度とかれらを見なかった。
そのとき耳の遠くなるようなひどい物音が聞こえた。大津波《おおつなみ》のうなる音、木のめりめりさける音、圧搾《あっさく》された空気の爆発《ばくはつ》する音、すさまじいうなり声がわたしたちをおびえさせた。
「大洪水《だいこうずい》だ」と一人がさけんだ。
「世界《せかい》の終わりだ」
「おお、神様お助けください」
人びとが絶望《ぜつぼう》のさけび声を立てるのを聞きながら、「先生」は平気な、しかしみんなを傾聴《けいちょう》させ
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