ははしごの横木にかじりついた。でもだれか下にいる人がほうり出されたらしかった、たきの勢《いきお》いがどっどっとなだれのようにおして来た。
 わたしたちは第一|層《そう》にいた。水はもうここまで来ていた。ランプが消えていたので、明かりはなかった。
「いよいよだめかな」と「先生」は静《しず》かに言った。「おいのりを唱《とな》えよう、こぞうさん」
 このしゅんかん、七、八人のランプを持った坑夫《こうふ》がわたしたちの方角へかけて来て、はしご段《だん》に上がろうと骨《ほね》を折《お》っていた。
 水はいまに規則《きそく》正しい波になって、坑《こう》の中を走っていた。気ちがいのような勢《いきお》いでうずをわかせながら、材木《ざいもく》をおし流して、羽《はね》のように軽《かる》くくるくる回した。
「通気竪坑《つうきたてこう》にはいらなければだめだ。にげるならあすこだけだ。ランプを貸《か》してくれ」と「先生」が言った。
 いつもならだれもこの老人《ろうじん》がなにか言っても、からかう種《たね》にはしても、まじめに気を留《と》める者はなかったであろうが、いちばん強い人間もそのときは精神《せいしん》を失
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