人のほかは、残《のこ》らず男の子であった。この人はもうかなりのおじいさんで、若《わか》いじぶんには鉱山《こうざん》で大工《だいく》の仕事をしていたが、あるとき過《あやま》って指をくだいてからは、手についた職《しょく》を捨《す》てなければならなかったのであった。
 さて坑《こう》にはいってまもなく、わたしは坑夫《こうふ》というものが、どういう人間で、どんな生活をしているものだかよく知ることになった。


     洪水《こうずい》

 それはこういうことからであった。
 運搬夫《うんぱんふ》になって、四、五日してのち、わたしは車をレールの上でおしていると、おそろしいうなり声を聞いた。その声はほうぼうから起こった。
 わたしの初《はじ》めの感じはただおそろしいというだけであって、ただ助かりたいと思う心よりほかになにもなかったが、いつもものにこわがるといっては笑《わら》われていたのを思い出して、ついきまりが悪くなって立ち止まった。爆発《ばくはつ》だろうか、なんだろうか、ちっともわからなかった。
 ふと何百というねずみが、一|連隊《れんたい》の兵士《へいし》の走るように、すぐそばをかけ出して来
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