チアはもうけっして頭痛《ずつう》がしなかった。けっしてみじめではなかったし、やせこけても、悲しそうでもなかった。美しい太陽と、さわやかな空気がかれに健康《けんこう》と元気をあたえた。旅をしながらかれはいつも上きげんに笑《わら》っていたし、なにを見てもそのいいところを見つけて、楽しがっていた。かれなしにはわたしはどんなにさびしくなることであろう。
 わたしたちはずいぶん性質《せいしつ》がちがっていた。たぶんそれでかえって性《しょう》が合うのかもしれなかった。かれは優《やさ》しい、明るい気質《きしつ》を持っていた。すこしもものにめげない、いつもきげんよく困難《こんなん》に打ちかってゆく気風があった。わたしには学校の先生のようなしんぼう気がなかったから、かれは物を読むことや音楽のけいこをするときにはよくけんかをしそうにした。わたしはずいぶんかれに対して無理《むり》を言ったが、一度もかれはおこった顔を見せなかった。
 こういうわけで、わたしが鉱山《こうざん》に下りて行くあいだ、マチアとカピが町はずれへ出かけて、音楽と芝居《しばい》の興行《こうぎょう》をして、それでわたしたちの財産《ざいさん》を
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