》いている者のほかは、よその人を入れないことになっているからと言った。
「だがおまえ、坑夫《こうふ》になりたいと思えばわけのないことだ」とかれは言った。「ほかの仕事に比《くら》べて悪いことはないよ。大道で歌を歌うよりよっぽどいいぜ。アルキシーといっしょにいることもできるしな。なんならマチアさんにも仕事をこしらえてやる。だがコルネをふくほうではだめだよ」
 わたしは、ヴァルセに長くいるつもりはなかった。自分の志《こころざ》すことはほかにあった。それでついわたしの好奇心《こうきしん》を満《み》たすことなしに、この町を去ろうとしていたとき、ひょんな事情《じじょう》から、わたしは坑夫《こうふ》のさらされているあらゆる危険《きけん》を知るようになった。


     運搬夫《うんぱんふ》

 ちょうどわたしたちがヴァルセをたとうとしたその日、大きな石炭のかけらが、アルキシーの手に落ちて、危《あぶ》なくその指をくだきかけた。いく日かのあいだかれはその手に絶対《ぜったい》の安静《あんせい》をあたえなければならなかった。ガスパールおじさんはがっかりしていた。なぜならもうかれの車をおしてくれる者はなかっ
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