なぼうひ》きであるこのおばさんは、その晩《ばん》ごくお軽少《けいしょう》のごちそうしかしなかった。ひどい労働《ろうどう》をする坑夫《こうふ》は、でもこごと一つ言わずに、このお軽少な夕食を食べていた。かれはなによりも平和を好《この》む、事《こと》なかれ主義《しゅぎ》の男であった。かれはけっしてこごとを言わなかった。言うことがあれば、おとなしい、静《しず》かな調子で言った。だから夕食はじきにすんでしまった。
ガスパールおばさんはわたしに、今晩《こんばん》はアルキシーといっしょにいてもいいと言った。そしてマチアにはいっしょに行ってくれるなら、パン焼《や》き場《ば》にねどこをこしらえてあげると言った。
その晩《ばん》それから続《つづ》いてその夜中の大部分、アルキシーとわたしは話し明かした。アルキシーがわたしに話したいちいちがきみょうにわたしを興奮《こうふん》させた。わたしはもとからいつか一度|鉱山《こうざん》の中にはいってみたいと思っていた。
でもあくる日、わたしの希望《きぼう》をガスパールおじさんに話すと、かれはたぶん連《つ》れて行くことはできまい、なんでも炭坑《たんこう》で働《はたら
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