食べようと思って、パン屋を探《さが》しに町へ行った。「わたしはマチアがさぞ、なんてことだ」と思っているだろうと考えて、こんな待遇《たいぐう》を受けたのがきまり悪かった。こんなことなら、なんだってあんな遠い道をはるばるやって来たのであろう。
 これではマチアが、わたしの友人に対してもおもしろくない感じを持つだろうと思われた。これではリーズのことを話しても、わたしと同じ興味《きょうみ》で聞いてはくれないだろうと思った。でもわたしはかれがひじょうにリーズを好《す》いてくれることを望《のぞ》んでいた。
 おばさんがわたしたちにあたえた冷淡《れいたん》な待遇《たいぐう》は、わたしたちにふたたびあのうちへもどる勇気《ゆうき》を失《うしな》わせたので、六時すこしまえにマチアとカピとわたしは、鉱山《こうざん》の入口に行って、アルキシーを待つことにした。
 わたしたちはどの坑道《こうどう》から工夫《こうふ》たちが出て来るか教えてもらった。それで六時すこし過《す》ぎに、わたしたちは坑道の暗いかげの中に、小さな明かりがぽつりぽつり見え始めて、それがだんだんに大きくなるのを見た。工夫たちは手に手にランプを持ち
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