たしだけで、とても百二十八フランなんという金高の集まりようはずがなかった。これだけあれば、ヴァルセからシャヴァノンまでの間に、あとの足りない二十二フランぐらいはわけなく得られよう。
 わたしたちが、ヴァルセに着いたのは午後の三時であった。きらきらした太陽が晴れた空にかがやいていたが、だんだん町へ近くなればなるほど空気が黒ずんできた。天と地の間に煤煙《ばいえん》の雲がうずを巻《ま》いていた。
 わたしはアルキシーのおじさんがヴァルセの鉱山《こうざん》で働《はたら》いていることは知っていたが、いったい町中《まちなか》にいるのか、外に住んでいるのか知らなかった。ただかれがツルイエールという鉱山で働いていることだけ知っていた。
 町へはいるとすぐわたしはこの鉱山《こうざん》がどのへんにあるかたずねた。そしてそれはリボンヌ川の左のがけの小さな谷で、その谷の名が鉱山の名になっていることを教えられた。この谷は町と同様ふゆかいであった。
 鉱山《こうざん》の事務所《じむしょ》へ行くと、わたしたちはアルキシーのおじさんのガスパールのいる所を教えられた。それは山から川へ続《つづ》く曲がりくねった町の中で、
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