った。そうとすればわたしたちはなによりまずヴァルセへ行ってバンジャメンに会う。その道にできるだけほうぼうで演芸《えんげい》をして歩こう。それから帰り道に金ができるかもしれないから、そのときシャヴァノンへ行って、王子さまの雌牛《めうし》のおとぎ芝居《しばい》を演《えん》じることにしよう。
わたしはマチアにこのくわだてを話した。かれはこれになんの異議《いぎ》をも唱《とな》えなかった。
「ヴァルセへ行こう」とかれは言った。「ぼくもそういう所へは行って見たいよ」
煤煙《ばいえん》の町
この旅行はほとんど三月かかったが、やっとヴァルセの村はずれにかかったときに、わたしたちはむだに日をくらさなかったことを知った。わたしのなめし皮の財布《さいふ》にはもう百二十八フランはいっていた。バルブレンのおっかあの雌牛《めうし》を買うには、あとたった二十二フラン足りないだけであった。
マチアもわたしと同じくらい喜《よろこ》んでいた。かれはこれだけの金をもうけるために、自分も働《はたら》いたことにたいへん得意《とくい》であった。実際《じっさい》かれのてがらは大きかった。かれなしには、カピとわ
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