。でもまだ……わたしはたいして大きな雌牛は欲《ほ》しくなかった。なぜなら太っていればいるほど、雌牛は値段《ねだん》が高いから。それに大きければ大きいほど雌牛《めうし》は食べ物がよけい要《い》るだろう。わたしはせっかくのおくり物が、バルブレンのおっかあのやっかいになってはならないと思う。さしあたりだいじなことは、雌牛の値段《ねだん》を知ることであった。いや、それよりもわたしの欲《ほ》しいと思う種類《しゅるい》の雌牛の値段を知ることであった。幸いにわたしたちはたびたびおおぜいの百姓《ひゃくしょう》やばくろうに行く先の村むらで出会うので、それを知るのはむずかしくはなかった。わたしはその日|宿屋《やどや》で出会った初《はじ》めの男にたずねてみた。
かれはげらげら笑《わら》いだした、食卓《しょくたく》をどんとたたいた。それからかれは宿屋のおかみさんを呼《よ》んだ。
「この小さな楽師《がくし》さんは、雌牛《めうし》の価《ね》が聞きたいというのだ。たいへん大きなやつでなくて、ごくじょうぶで、乳《ちち》をたくさん出すのだそうだ」
みんなは笑《わら》った。でもわたしはなんとも思わなかった。
「そうで
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