庭のまん中に集まった。マチアとわたしは荷馬車の中に陣取《じんど》った。
「きみはカドリールがひけるか」と心配してわたしはささやいた。
「ああ」
かれはヴァイオリンで二、三|節《せつ》調子を合わせた。運よくわたしはその節《ふし》を知っていた。わたしたちは助かった。マチアとわたしはまだいっしょにやったことはなかったが、まずくはやらなかった。もっともこの人たちはたいして音楽のいい悪いはかまわなかった。
「おまえたちのうち、コルネ(小ラッパ)のふける者があるかい」と赤い顔をした大男がたずねた。
「ぼくがやれます」とマチアは言った。「でも楽器《がっき》を持っていませんから」
「わしが行って探《さが》して来る。ヴァイオリンもいいが、きいきい言うからなあ」
わたしはその日一日で、マチアがなんでもやれることがわかった。わたしたちは休みなしに晩《ばん》までやった。それにはわたしは平気であったが、かわいそうにマチアはひどく弱っていた。だんだんわたしはかれが青くなって、たおれそうになるのを見た。でもかれはいっしょうけんめいふき続《つづ》けた。幸いにかれが気分が悪いことを見つけたのは、わたし一人ではなかっ
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